寄稿☆小林歌穂 初個展「ひらけ!ぽーの自由帳 」によせて☆

胃もたれ Acrylic on Canvas, 15×15cm.

 

アートディレクションやアートワークなどで度々関わらせていただいている私立恵比寿中学(エビ中)の小林歌穂さん初の個展。誕生日が同じという縁もあり西岡ペンシルが監修いたしました。会場構成を一緒に考えたり、描きあがった絵を「良い!」と強く推したり、準備を進めつつオープン初日を心待ちにしていました。

 

 

展覧会は恵比寿のギャラリーALにて12/8~13に開催されました。冒頭のパネル、小林さんからのごあいさつにもあったように、この時期に訪れていただいた皆さまに感謝!密を避けながら来場者が静かに行き交う会場内。ゆっくり浸かっていたい少しぬるめの温泉のような、おだやかでやさしい時間がそこにありました。

 

低空飛行 Acrylic on Canvas, 27.5×27.5cm.

 

作品群はどれも興味深く、僕自身とても楽しんだ展示でした。僕も学生の作品審査や講評をやることがありますが、芸大や美大で学んでいないからこそ描けた絵かもしれません。

世の作家たちは作品に説得力をもたせたり価値をつくるために、製作過程に粋なプロセスを盛り込んだり、ハプニングを試みたり、正体を隠したり…。あれやこれやと策を練るわけですが、そういったストーリーや文脈づくり、隠喩やみたてなどを小林さんはさくっとやってのけていた。かわいくておもしろい絵はもちろんシンプルに楽しめるけれど、作品に込められた意図を汲み取れたら、もっと楽しめる。“これあのときのあれがここにこうなっているんだよね…”という風に。彼女はアイドル/女優としての活動を通して、ファンとの関係性の中でこれまでまいてきた種を、会場のあちこちで花開かせていました。これはレアなケースかもしれない。

 

平凡人~エビ中編 Acrylic on Canvas, 80×65cm.

 

にわににわのにわとりとわに Acrylic on Canvas, 27.5×27.5cm.

 

ゴリヒヨ Sumi ink on Watercolor paper, F6.

 

首を長くしてまってたキリン Hot glue gun.

 

見る人は絵をみてタイトルを当てに行ったり、タイトルと絵を行ったり来たりして楽しむ。あちこちにあった言葉遊びに、江戸時代の北斎漫画や草双紙にみられるしつこくて柔らかい笑いを感じました(誰の浮世絵だったか噴火した火山のこぶを見に集まる人だかりの中に、大きなこぶをほっぺたにつくった人がいる、みたいなベタベタな浮世絵があったんですよ)。

 

私 Acrylic on Canvas, 91×73cm, 2020.

 

彼女が自分のことをどう見えているのか、どう見せたいのかは、みんなの興味があるところだったと思う。自画像を描く作業は自分の好きなところだけでなく嫌なところにも向き合わなければならないので、ナルシストでもない限りそんなには楽しくない。今回の中でも一番苦労したようでした。キリッとした眼差しと強い眉はフリーダ・カーロをちょっと彷彿とさせます。

小林さんがフリーダ・カーロを知っているかはわからないけれど、なんでも明らかにする必要もないと思っている。無目的に描かれた絵だってあるだろうし、息をするように描かれた絵もあるわけで。この作品に込めた思いはなんですか?と聞けば即、答えてもらえることを期待するのは受け手の怠慢かもしれない。少しは自分で考えてから聞けと、かのアラーキーもNHKのドキュメンタリーの中で終始イラついていた。話は逸れました。

 

しろくま? Mixed Media, 27.5×27.5cm.

 

恵比寿のギャラリーのALはこれまで、多くのアーティストや作家さんが素敵な展示をされてきた場所。いわゆる“ザ・画廊”というところではなく、ユニークな試みを受け入れてくれる。ここで開催出来たこともよかった。 ALの皆さんに感謝です。

小林さんは展示中、個展の開催が現実か掴みかねるような不思議な感じ、みたいなことをふわふわしながら言っていました。そろそろ実感している頃ではないでしょうか。僕も何度かの個展を開いていますが、絵を描くこと、個展を開くことで分かることが沢山あります。小林さんも何かつかんでいるに違いない。まだ始まったばかり。小林歌穂のこれからの展開が楽しみです☆(西岡ペンシル)

 

2020 © KAHO KOBAYASHI